建退共(建設業退職金共済)は、建設現場で働く人の退職金を日々の掛金で積み立てる制度で、加入は任意です。ただし経審のW評点では15点(P点換算で約19.7点)が入り、公共工事では履行の確認もされます。掛金は1日320円で全額事業主負担です。以下、加入を判断するために必要な仕組みと手続きを、公表資料の数値だけで整理します。
この記事は、経審の点数を上げる方法を並べるものではありません。建退共そのものの仕組み、掛金と納付、退職金の請求、そして経審のどこで何点になるのかを、一つの流れとして扱います。経審の全体像は千葉県の経営事項審査の申請ガイドに譲ります。
建退共とは
建退共は、建設現場で働く人の退職金を、事業主が働いた日数に応じた掛金で積み立て、その人が建設業の仕事をやめたときに機構から退職金を支払う制度です。根拠法は中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号)。同法第2条第4項が「特定業種」を、第5項が「特定業種退職金共済契約」を定めており、建退共はこの特定業種退職金共済契約のうち建設業を対象にしたものです。
運営するのは独立行政法人勤労者退職金共済機構の建設業退職金共済事業本部(東京都豊島区東池袋1-24-1)です。国が制度をつくり、現場の事業主が掛金を出し合い、業界全体で労働者の退職金を支える形になっています。
ここで一つ、法令名の誤解を解いておきます。「建設業退職金共済法」という法律があるわけではありません。ネット上の解説でもこの名称を見かけますが、現行の根拠法はあくまで中小企業退職金共済法です。制度の歴史は古く、昭和39年10月に建設業退職金共済組合が設立され、同年11月に業務を開始しました。60年以上、同じ枠組みが続いています。
最大の特徴は、勤続年数ではなく就労日数で積み上がる点です。建設業は工事ごとに雇用が動くため、一つの会社に勤め続けることを前提にした退職金制度では実態に合いません。建退共は現場が変わっても掛金が通算されるので、労働者にとっては「どこで働いても自分の退職金が残る」仕組みになります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 根拠法 | 中小企業退職金共済法(昭和34年法律第160号) |
| 制度上の位置づけ | 同法第2条第5項の特定業種退職金共済契約 |
| 運営主体 | 独立行政法人勤労者退職金共済機構 建設業退職金共済事業本部 |
| 積み立ての単位 | 就労日数(勤続年数ではない) |
| 掛金日額 | 320円(令和3年10月1日から) |
| 受給要件 | 掛金納付日数の合計が12月以上 (21日分を1か月と換算) |
加入のメリットと任意性
建退共への加入は法律上の義務ではありません。事業主が機構との間で特定業種退職金共済契約を結ぶ、任意の制度です。建設業許可の要件にも入っていないため、「加入していないと許可が取り消される」ということもありません。
ただし、実務では「任意だから入らなくてよい」で終わりません。公共工事では加入状況が繰り返し確認されます。国は令和8年3月31日付の通達で、公共工事の入札参加資格審査申請書を受理する際に、加入・履行証明書または経審結果通知書で加入の有無を確認するよう発注者に求めました。元請が下請の加入と掛金納付を確認する運用も徹底されています。任意制度でありながら、公共工事を狙う企業にとっては避けにくい制度、という位置づけです。
加入できる範囲は広いです。建設業を営む事業主であれば、総合・専門・職別の別、元請・下請の別、専業・兼業の別、建設業許可の有無を問いません。対象になるのは建設現場で働く労働者で、職種や国籍、日給制・月給制も問いません。一方で、役員報酬を受けている人や本社等の事務専用の社員は対象外です。同じ人が複数の退職金共済に重複して入ることもできません。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 加入できる事業主 | 建設業を営む者(許可の有無、元請・下請、専業・兼業を問わない) |
| 加入できる労働者 | 建設現場で働く労働者(職種、国籍、給与形態を問わない) |
| 加入できない人 | 役員報酬を受けている者、本社等の事務専用社員 |
| 重複の制限 | 中小企業退職金共済、清酒製造業・林業の各退職金共済の加入者 |
| 一人親方 | 任意組合をつくり規約が認定されれば、組合を事業主とみなして加入できる |
事業主側のメリットは、大きく4つあります。
- 掛金が全額経費になる:法人は損金(法人税法施行令第135条第1号)、個人事業は必要経費(所得税法施行令第64条第2項)に全額算入できます。
- 労働者に負担させられない:掛金は全額事業主負担です。給与から天引きして一部でも負担させることは禁止されています。福利厚生として説明しやすい形です。
- 経審のW評点で15点:後述するとおり、P点換算で約19.7点分になります。
- 公共工事の確認に応えられる:入札参加資格審査、元請からの履行確認、発注者への購入状況報告に、証明書で対応できます。
掛金と納付
掛金は1日320円です。令和3年10月1日に310円から320円へ改定され、令和8年11月現在も320円のままです。
ここは情報が混線しやすいところです。令和8年10月1日にも制度変更がありましたが、変わったのは退職金の予定運用利回り(1.3%から1.5%へ)で、掛金日額は据え置かれました。「2026年に掛金が上がった」という記述を見かけたら、利回りの引き上げと混同していないか確認してください。
掛金は就労日数に比例します。年250日働く人なら、320円×250日で年間8万円です。1人あたりの負担は読みやすく、人数と日数が分かれば年間のコストを先に計算できます。
| 年間の就労日数 | 年間掛金 |
|---|---|
| 100日 | 32,000円 |
| 150日 | 48,000円 |
| 200日 | 64,000円 |
| 250日 | 80,000円 |
| 300日 | 96,000円 |
納付方法は2つあります。どちらを選ぶかで、事務の負担が変わります。
| 方式 | 内容 |
|---|---|
| 証紙方式 | 金融機関などで共済証紙を購入し、共済手帳に貼って消印する。賃金支払のつど、少なくとも月1回 |
| 電子ポイント方式 | 退職金ポイントを購入し、電子申請専用サイトで就労実績を報告して掛金に充当する。ポイントの購入はペイジーまたは口座振替 |
電子ポイント方式は、証紙の購入・貼付・消印が不要になり、就労実績の報告もオンラインで完結します。令和8年11月からは、ほぼすべての金融機関で口座振替によるポイント購入が可能になりました。現場ごとに証紙を持ち運ぶ手間を考えると、複数の現場を回す事業者ほどメリットが大きい方式です。
下請が使う掛金は、元請が証紙を現物で交付するか、掛金相当額を下請代金に算入します。元請が一括して購入し、就労実績の報告を受けて交付する運用が一般的です。このとき、下請への交付が適正かどうかは、後の加入・履行証明の審査対象になります。
加入の手続きは、共済契約申込書(様式第001号)と共済手帳申込書(様式第002号)に記入し、事業所の所在地を管轄する支部へ提出するだけです。手続きに費用はかかりません。共済手帳は労働者1人につき1冊で、退職するまで事業主が預かり、就労日数に応じて掛金を充当していきます。
千葉県の窓口は建退共千葉県支部(千葉市中央区中央港1-13-1 千葉県建設業センター5階、TEL 043-246-7379)です。令和8年8月10日から当面の間、月曜日の窓口業務が終日休止となり、窓口は火曜から金曜の9時30分〜11時30分、13時00分〜15時30分に変わっています。
各種申請は郵送でも受け付けています。証紙を貼った手帳を送るときは、事故防止のため簡易書留などを利用してください。郵送での更新手続きは営業日3週間程度かかり、加入・履行証明の審査と発行は郵送対応のみです。急ぐときは受付時間内に窓口へ、というのが支部の案内です。経審の申請時期が決まっている場合は、証明書の取得を逆算して動く必要があります。
退職金の請求
退職金を受け取れるのは、共済手帳に貼った証紙と電子申請で充当した掛金の日数の合計が12月(21日分を1か月と換算)以上になった人です。12月に満たないと支給されません。日雇い的な働き方でも、通算して12月分に届けば受給資格が生まれます。
支給のタイミングは「建設業関係の仕事をしなくなったとき」です。転職先が建設業でなければ請求できます。請求するのは労働者本人で、死亡した場合は遺族が請求します。事業主が請求する制度ではありません。
請求の際は、退職金請求書(様式第007号)に事業主の証明を受けたうえで、共済手帳、マイナンバーの記載がある住民票(発行から3か月以内のもの)、振込口座が分かるもの、退職所得申告書を添えて支部へ提出します。書類が受理されてから振込まで1か月ほどかかります。
事業主の役割は、退職する労働者に共済手帳を渡し、退職金を請求できる旨を伝えることです。手帳は労働者のもので、事業主が保管したままにすると請求が止まります。退職時に手帳を渡し忘れる、というのが最も多いつまずきです。
退職金額は、納付した掛金と予定運用利回りで決まります。令和8年10月1日から利回りが1.3%から1.5%に引き上げられ、掛金日額320円のまま、将来受け取る額が増えました。令和3年10月1日以降の掛金納付分にも1.5%が適用されます(請求事由の発生が令和8年10月1日以降の場合)。
| 掛金納付年数 | 従来 | 令和8年10月1日以降 |
|---|---|---|
| 5年 | 414,087円 | 415,296円 |
| 10年 | 893,559円 | 903,168円 |
| 20年 | 1,933,479円 | 1,978,032円 |
| 30年 | 3,038,919円 | 3,148,656円 |
| 40年 | 4,268,007円 | 4,449,648円 |
| 45年 | 4,913,127円 | 5,164,656円 |
なお、掛金納付月数が1年以上2年未満の場合は掛金納付額の3〜5割程度、遺族請求の場合は掛金相当額が支給されるとされています。短期間で離職する人が多い現場では、この違いもあわせて説明しておくと、退職時の行き違いを減らせます。
経審W評点での評価
経営事項審査の総合評定値Pは、P=0.25X1+0.15X2+0.20Y+0.25Z+0.15Wで計算します。Wは「その他の審査項目(社会性等)」で、その中のW1「建設工事の担い手の育成及び確保に関する取組の状況」に、建退共の加入状況が15点で組み込まれています。未加入なら0点です。
この15点は、W評点に換算すると131.25点(Wの合計点×10×175/200、端数切捨て)、P点では約19.7点分になります。P点は入札の評価で数百点規模の差がつく世界ですから、19.7点は小さな差ではありません。同じW1の中で、若年の技術者・技能労働者の育成は2点、ワーク・ライフ・バランスの取組は5点です。建退共の15点がどれだけ大きいかが分かります。
ただし、加点の条件は「契約していること」だけではありません。経審の申請では加入・履行証明書を添付します。証明書は加入・履行証明願(様式第103号)で交付を受け、機構が発行基準を満たしているか審査されます。基準は、共済手帳の更新が適正であること、掛金の充当額が被共済者の就労日数に見合っていること、証紙方式の公共工事では工事別共済証紙受払簿を工事完成後1年間備え付けていること、下請への証紙交付やポイント充当が適正であることです。
つまり「加入しているだけ」では足りず、履行が問われます。掛金の未納や貼り漏れがあると証明書が発行されず、15点を取れません。加入はしているのに点数が入っていない、という相談は実際にあります。
評価されるのは審査基準日の状態です。年度の途中で加入すると、その期の基準日に間に合わないことがあります。決算月から逆算して、少なくとも基準日の前には契約と初回の掛金充当を終えておく必要があります。P点の式と各項目の内訳は経営事項審査の評点計算|P点の式とW評点の改正に、Y評点の考え方は経営状況分析(Y評点)にまとめています。
| W1の評価項目 | 配点 |
|---|---|
| 建退共の加入状況 | 15点 |
| 退職一時金または企業年金制度の導入 | 15点 |
| 法定外労災制度の加入状況 | 15点 |
| 若年の技術者・技能労働者の育成及び確保 | 2点 |
| 知識及び技術又は技能の向上に関する取組 | 10点 |
| ワーク・ライフ・バランスに関する取組 | 5点 |
| 就業履歴を蓄積するために必要な措置(CCUS) | 10点(公共工事のみは5点) |
| 建設技能者を大切にする企業の自主宣言 | 5点 |
| W1の合計 | 77点 |
CCUSの取組は建設キャリアアップシステム(CCUS)とはにまとめています。建退共とCCUSは別の項目ですが、どちらも「技能者を大切にする企業か」を測る同じW1の枠内にあり、現場の事務の作り方が共通します。就労実績を日単位で記録する仕組みがあるかどうかが、両方に効いてきます。
令和8年改正での位置づけ
令和8年7月1日施行の改正で、W1の配点が組み替えられました。柱は3つです。建設技能者を大切にする企業の自主宣言制度の新設(5点)、建設機械の加点対象への不整地運搬車とアスファルト・フィニッシャの追加、社会保険加入に関する減点項目(雇用保険・健康保険・厚生年金保険、各▲40点)の削除です。
建退共の15点は、この改正で動きませんでした。改正前も改正後も15点です。W1の上限は77点で変わらず、下限は▲120点から0点になりました。就業履歴(CCUS)が15点から10点に下がり、自主宣言の5点が加わったことで、上限が結果的に同じになっています。
| 項目 | 改正前 〜令和8年6月30日 | 改正後 令和8年7月1日〜 |
|---|---|---|
| 建退共の加入状況 | 15点 | 15点 |
| W1の合計 | 77点/ ▲120点 | 77点/0点 |
| 社会保険の3項目 | 各▲40点 | 削除 |
| 自主宣言 | なし | 5点(新設) |
| W評点の下限 | ▲1,838点 | ▲788点 |
| P点の下限 | 6点 | 163点 |
W評点の下限が▲1,838点から▲788点に、P点の下限が6点から163点に上がったことで、「マイナスが大きく付く時代」は終わりました。ただし、これを「未加入のペナルティが消えた」と読むのは誤りです。15点の差はそのまま残り、P点では約19.7点です。下限の引き上げは、社会保険の減点がなくなったことと、W1の最低点が0になったことによるもので、建退共の評価とは別の話です。
むしろ、下限が上がって各社のWが底上げされると、加点項目の取りこぼしが順位に効きやすくなります。全社が同じように下限から抜け出すと、差がつくのは「取れている加点を取れているか」だからです。千葉県の経審の手続きと受審スケジュールは千葉県の経営事項審査の申請ガイドにまとめています。
未加入のリスク
未加入で失うものを、点数と実務に分けて整理します。
- 経審のW評点15点:P点換算で約19.7点。毎年の受審で積み重なる差になります。
- 入札参加資格審査での確認:加入・履行証明書または経審結果通知書で加入の有無を確認される場面があります。
- 千葉県発注工事の報告:契約金額500万円以上の建設工事では、契約締結後1月以内に「建設業退職金共済証紙(退職金ポイント)購入状況報告書」を発注者へ提出します。未加入だと、この報告自体ができません。
- 元請としての確認責任:下請の加入と掛金納付を確認する立場を、証憑をもって果たせなくなります。
- 人の定着:退職金が積み上がらない事業者には、技能者が残りません。採用の場面でも説明できる材料が減ります。
退職一時金制度や企業年金を導入すれば、W1の別項目で15点を取ること自体は可能です。ただし、公共工事で求められるのは建退共の加入・履行の確認であり、代替にはなりません。また、建退共と中小企業退職金共済は同じ人について重複して加入できないため、すでに中退共に入っている従業員がいる場合は、対象者の切り分けを先に決める必要があります。
事務所の所在地や商号を変えるときは、建設業許可の変更届と並行して、建退共の契約者情報の変更も進めます。手続きの全体は建設業許可の変更届|必要書類・期限の早見表を参照してください。入札参加資格そのものの準備は千葉県の建設工事の入札参加資格にまとめています。
よくある質問
建退共は加入が義務ですか
法律上の義務ではありません。建設業許可の要件でもありません。ただし公共工事では、入札参加資格審査や元請による履行確認、千葉県の購入状況報告の対象になるため、実務上は加入が前提に近い場面があります。「任意か義務か」ではなく「公共工事を狙うかどうか」で判断するのが実態に合っています。
掛金は誰が負担しますか
全額事業主です。給与から天引きして一部でも労働者に負担させることはできません。掛金は法人なら損金、個人事業なら必要経費に全額算入できます。社会保険料のように労使で折半するものとは、仕組みが違います。
従業員が退職したら何をすればよいですか
共済手帳を本人に渡し、退職金を請求できる旨を伝えてください。請求は本人が行います。掛金納付が12月に満たない場合は支給されないため、その点もあわせて伝えておくと親切です。手帳を渡し忘れると、本人が請求の手続きを始められません。
経審では加入しただけで加点されますか
審査基準日に契約があり、加入・履行証明書が発行されることが条件です。手帳の更新が滞っていたり、掛金の充当が就労日数に見合っていなかったりすると証明書が出ません。「契約した月」ではなく「基準日の状態」で判定される点に注意してください。
一人親方でも加入できますか
一人親方が任意組合をつくり、その規約が機構に認定されれば、組合を事業主とみなして加入できます。単独で契約するのではなく、組合を通す形です。組合の作り方と規約の認定手続きは支部の案内に従ってください。
まとめ
建退共は任意の制度ですが、公共工事を狙う建設業者にとっては、経審のW評点15点(P点換算で約19.7点)と、公共工事の履行確認の両方に効く制度です。掛金は1日320円で全額事業主負担、加入は申込書2枚を支部へ出すところから始まります。
判断が必要なのは、加入するかどうかよりも、審査基準日に間に合わせられるかです。決算月と受審予定から逆算し、余裕をもって支部に相談してください。掛金の納付方法は、現場の数と事務の体制で選びます。
千葉県内で加入を検討している方は、建退共千葉県支部(043-246-7379)へ。経審や入札参加資格とあわせて整理したい場合は、当事務所の相談窓口をご利用ください。

