相続財産調査は、まず自宅に届いている固定資産税の課税明細書と法務局の登記で不動産を押さえ、次に金融機関へ照会して預貯金と保険を確認し、最後に債務を洗い出す順で進めます。この順番なら、最初の1週間は費用をほとんどかけずに全体像がつかめ、相続放棄の3か月、相続税の10か月という期限にも間に合います。逆に、いきなり金融機関を回り始めると、どこに何を照会すべきかが決まらないまま時間だけが過ぎます。以下では、財産の種類ごとの調べ方、名寄帳の取り方、債務の確認先、行政書士に頼める範囲まで、根拠条文と公的な手数料を添えて整理します。

相続財産調査とは|「プラス」と「マイナス」を洗い出す作業

相続財産とは、被相続人が持っていた権利義務のうち、金銭に見積もることができるものの全体です。預貯金や不動産のような「プラス」だけでなく、住宅ローンや未払いの税金、保証債務という「マイナス」も相続財産に含まれます(民法896条)。一身専属の権利、たとえば扶養請求権や、被相続人本人に帰属する年金の受給権は相続の対象になりません。この切り分けが、後の遺産分割と相続税の計算の前提になります。

混同しやすいのが相続人調査との違いです。相続人調査は「誰が相続人か」を戸籍で確定する作業、相続財産調査は「何をどれだけ持っていたか」を資料で確定する作業です。どちらが先という関係ではなく、並行して進めます。相続人が確定していなければ金融機関も照会に応じられず、財産の全体像が分からなければ遺産分割の案も作れません。戸籍の集め方は相続人調査の流れと手順で、戸籍そのものの取り方は戸籍の各種届出手続きで整理しています。

調査の成果物は財産目録です。財産目録は、遺産分割協議の土台になり、相続税がかかるかどうかの判定資料になり、相続放棄を選ぶかどうかの判断材料にもなります。相続税の申告書には財産の明細を記載しますから、目録の精度がそのまま申告の精度になります。遺産分割協議書の作り方は遺産分割協議書の書き方にまとめましたが、そこに書き込む不動産の地番・地積・預金の口座番号は、この調査で確定させた数字です。

見落としやすい財産には共通点があります。被相続人が「自分のもの」と認識していなかったもの、家族が存在を知らなかったものです。共有名義の持分、登記されていない古い家屋、貸金庫の中身、死亡保険金、未支給の年金、事業用の売掛金、ネット銀行の口座、暗号資産。どれも通帳や固定資産税の通知だけを見ていると抜けます。まずは次の表で、財産の種類ごとに「最初に何を見るか」を押さえてください。

財産の種類最初に見るもの・照会先
不動産固定資産税の課税明細書、法務局の登記事項証明書、物件所在地の市区町村の名寄帳
預貯金通帳・キャッシュカード・郵便物、各金融機関への残高証明請求、相続時預貯金口座照会
有価証券証券会社の年間損益報告書・特定口座の明細、証券会社への残高照会
生命保険保険証券、保険料の口座振替履歴、生命保険協会の生命保険契約照会制度
年金年金振込通知書・ねんきん定期便、年金事務所への未支給年金の照会
事業用資産決算書・確定申告書、棚卸表、売掛帳・買掛帳、事業用口座の通帳
デジタル資産スマートフォン・パソコン、ネット銀行・ネット証券のメール、電子マネー・暗号資産の取引画面
債務ローン返済表・カード明細、信用情報機関の開示、債権者への直接照会、納税通知書
表1 財産の種類と、最初に見るもの

調べる順番|課税明細書・登記・金融機関・債務の4段階

順番を決める基準は3つです。費用が安いものから、時間がかかるものから先に、そして「所在が分からないと次に進めないもの」を先に。この基準で並べると、①自宅の書類、②不動産の確定、③金融機関への照会、④債務の確認という4段階になります。①と②は無料か数百円で、平日1日あれば概ね終わります。③は1か月待ちの手続きを含み、④は期限との勝負になります。

第1段階は、自宅にある書類をかき集めることです。固定資産税の納税通知書と課税明細書、通帳、保険証券、年金の振込通知書、カードの利用明細、確定申告書の控え、郵便物。ここで大事なのは、郵便物を捨てずに読むことです。金融機関からの残高通知、証券会社の年次報告、カード会社の明細、保険会社の更新案内には、口座や契約の手がかりがそのまま書かれています。被相続人宛の郵便物は、郵便局に転送届を出すと1年間は現住所に転送されます。届く郵便物の差出人を並べるだけで、関与していた金融機関の一覧がおおよそ作れます。

第2段階は不動産の確定です。課税明細書で自宅と近隣の物件を押さえ、法務局で登記を確認し、必要なら名寄帳で同じ市区町村内の物件をもれなく拾います。不動産は金額が大きく、相続登記の要否にも直結するので、金額の大小にかかわらず最初に確定させます。登記を見ると、所有者だけでなく抵当権や差押えの有無も分かります。抵当権が残っているのに債務の記憶がない、という場合は、団体信用生命保険による完済が済んでいない可能性があり、債務調査の入口になります。

第3段階は金融機関への照会です。預貯金は残高証明書と取引履歴、有価証券は残高証明、保険は契約照会、年金は未支給分の確認という順で進めます。残高証明は相続人であれば請求でき、手数料は無料か数百円のことが多い一方、取引履歴は10年分となると数百円から数千円かかる場合があります。相続税の計算と使途不明金の確認のために、直近10年分は取っておくのが実務的です。

第4段階は債務の確認です。信用情報機関の開示、カード会社やローンの契約書、納税通知書、公共料金の請求書、そして保証債務の有無。ここで新しい債務が出てくると、遺産分割の前提が変わります。相続放棄を考える場合は、この段階の情報が判断の中心になります。次の表に、主な取得先と費用をまとめました。

取得するもの取得先と費用の目安
課税明細書自宅に届いた納税通知書に同封。紛失した場合は市区町村の税務窓口で再取得
登記事項証明書法務局(オンライン請求可)。書面請求600円、オンライン請求は窓口受取490円・郵送520円
名寄帳物件所在地の市区町村。千葉市は1納税義務者・1課税年度・1区300円
固定資産評価証明書物件所在地の市区町村。千葉市は1納税義務者・証明書1枚300円
残高証明・取引履歴各金融機関の窓口。無料〜数百円が中心で、履歴は年数分で加算されることがある
相続時預貯金口座照会金融機関の窓口(取引のない金融機関でも可)。1件5,060円(消費税込)
生命保険契約照会生命保険協会。対象者1名につきWEB申請6,000円、書面申請7,000円
信用情報の開示全国銀行個人信用情報センター・JICC・CIC。郵送手続きが中心
表2 主な取得先と費用の目安(2026年11月時点)

不動産の調べ方|課税明細書・登記・名寄帳の3点で突き合わせる

不動産は、課税明細書・登記・名寄帳という性格の違う3つの資料を突き合わせると、ほぼ漏れがなくなります。1つ目は固定資産税の課税明細書です。毎年4月頃に届く納税通知書に同封され、1月1日時点の所有者について、所在地番、地目、地積、家屋の種類、床面積、評価額が物件ごとに並びます。無料で手元にあり、評価額から相続税の概算まで出せるので、最初に見るべき資料です。

ただし、課税明細書には弱点があります。共有名義の不動産では、納税通知書が共有者の代表者にしか届かないことがあります。被相続人が代表者でなければ、手元に明細書がないまま「うちには不動産は1つだけ」と思い込むことになります。また、複数の市区町村に物件があれば、通知書も市区町村ごとに届きます。この弱点を補うのが2つ目の登記と3つ目の名寄帳です。

登記は法務局で取得します。登記事項証明書は、所有者の氏名・住所、取得の原因と日付、抵当権や差押えの有無まで分かる基本資料です。手数料は書面請求で1通600円、オンライン請求なら窓口受取490円・郵送520円です(令和7年4月1日改定)。請求には住所ではなく地番が必要なので、課税明細書の所在地番をそのまま使います。土地と建物は別の登記記録なので、2通取ります。相続登記が済んでいない物件は、所有者が被相続人のままです。これは調査の不備ではなく、まだ手続きが済んでいないという意味であり、相続登記の対象になります。

名寄帳は、その市区町村内で被相続人が持つ土地と家屋を一覧にした資料です。物件ごとに縦に並ぶ課税台帳を、所有者ごとにまとめ直したものと考えてください。課税明細書が届かない共有物件や、存在を忘れていた祖父母名義の土地が、ここで見つかることがあります。取得方法と手数料は後の見出しで詳しく扱います。

3点を突き合わせても拾えないものがあります。登記されていない未登記家屋は、課税台帳には載っていても登記簿には出てきません。逆に、公衆用道路や墓地のような非課税の資産は、名寄帳にも課税明細書にも載りません。借地権や借家権は、土地・建物の登記とは別の権利で、台帳の一覧には表れません。私道の持分、地代の支払い、隣地との境界についての覚書も、書類をたどらないと分かりません。物件の所在が分かったら、法務局の地図・公図と現地を見て、登記・台帳・現実の3つを一致させる作業が必要です。

空き家や放置された不動産がある場合は、調査の段階で管理の状態も確認します。2024年(令和6年)4月1日から、相続で不動産を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請することが義務になりました(不動産登記法第76条の2第1項)。正当な理由なく怠ると10万円以下の過料の対象です(同法第164条第1項)。誰も住んでいない家は、売却するにも国庫帰属を申請するにも、まず名義と境界を確定させる必要があります。相続手続き全体の順序は相続手続きの流れで整理しています。

預貯金・有価証券・保険・年金の調べ方

預貯金は、通帳と郵便物で当たりをつけてから、金融機関ごとに残高証明書を請求します。相続人であれば、被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍と住民票、申込者の印鑑証明書といった書類で請求できます。金融機関によって必要書類が少しずつ違うため、窓口か電話で先に確認すると1往復減ります。残高証明は相続税の課税価格の計算に使い、取引履歴は使途不明の出金や、被相続人が他に口座を持っていないかを探す手がかりになります。

通帳が見つからない場合に強力なのが、2025年(令和7年)4月1日に始まった相続時預貯金口座照会です。預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律(口座管理法)に基づく制度で、相続人(包括受遺者を含む)が金融機関の窓口で申し込むと、預金保険機構が全国の金融機関にまとめて照会し、結果を郵送で返します。取引のない金融機関でも申し込めます。

この制度には、使う前に知っておくべき制限が4つあります。1つ目は、照会できるのが被相続人の死亡後10年までであること。2つ目は、対象が被相続人が生前にマイナンバーを紐付けた口座に限られること。3つ目は、通知されるのが金融機関名・支店名・預貯金の種類・口座番号などで、残高は含まれないこと。4つ目は、手数料が1件5,060円(消費税込)で、申込みから通知まで1か月程度かかることです。残高は分からないので、口座が見つかったら各金融機関に改めて残高証明を請求します。マイナンバーを紐付けていない古い口座は照会に出ないため、通帳や郵便物からの調査と併用してください。

有価証券は、証券会社を特定するところから始めます。特定口座の年間損益報告書、源泉徴収票、証券会社からの郵便物、銀行の口座から証券会社へ振り替えた記録が手がかりです。証券会社が分かれば、残高証明書と保有銘柄の一覧を請求します。上場株式は証券保管振替機構を通じた管理なので、証券会社の照会で足ります。ネット証券の口座は郵便物が少なく、メールの通知だけで完結していることがあるため、スマートフォンやパソコンのメールも確認します。

生命保険は、保険証券が見つからない場合でも照会できます。生命保険協会の生命保険契約照会制度を使い、照会対象者1名につきWEB申請6,000円、書面申請7,000円で、会員会社の契約の有無を確認できます。対象になるのは照会受付日現在で有効に継続している個人保険契約で、死亡による照会では死亡日まで最低3年間遡ります。財形保険・財形年金保険、支払が開始した年金保険、保険金が据置きとなっている保険は対象外です。回答は契約の有無が中心ですが、照会者が死亡保険金の受取人になっている契約についてはその旨も回答されます。

ここで押さえておきたいのが、死亡保険金の法的な位置づけです。受取人が指定されている死亡保険金は、受取人固有の財産で、遺産分割の対象にはなりません。一方、被相続人が保険料を負担していた死亡保険金は、相続税ではみなし相続財産として課税対象になります(相続税法第3条第1項第1号)。ただし「500万円×法定相続人の数」までは非課税です(同法第12条第1項第5号)。遺産分割の対象かどうかと、相続税の対象かどうかは別の話だという点が、実務で最も誤解される部分です。

年金は、年金事務所かねんきんネットで記録を確認します。受給権者が死亡した場合、まだ受け取っていない年金が残っていることがあります。これを未支給年金といい、相続財産ではなく、被相続人と生計を同じくしていた遺族が自分の権利として請求するものです(国民年金法第19条第1項、厚生年金保険法第26条)。受け取れる順位は配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹の順で、同順位の人が複数いるときは代表者1名が請求します。請求権は5年で時効になります(国民年金法第102条第1項、厚生年金保険法第92条第1項)。

デジタル資産と事業用資産は、書類が紙で残らないぶん見落とされます。ネット銀行、ネット証券、電子マネー、暗号資産の口座、サブスクリプションの契約、クラウド上の写真やデータ。スマートフォンのアプリと、登録確認のメールをたどると一覧になります。事業を営んでいた場合は、決算書と確定申告書、棚卸表、売掛帳と買掛帳、事業用口座、リース契約、従業員への未払給与まで確認します。事業用の財産は金額が大きくなりやすく、相続税と遺産分割の両方に影響します。

手続き主な必要書類
残高証明の請求被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍・住民票、申込者の印鑑証明書、金融機関所定の請求書
相続時預貯金口座照会申込書、個人情報の第三者提供に関する同意書、被相続人の死亡が分かる書類、相続人の本人確認書類、続柄が分かる戸籍または法定相続情報一覧図の写し
生命保険契約照会照会代表者の本人確認書類、法定相続人であることを示す書類(法定相続情報一覧図または戸籍)
信用情報の開示開示申込書、被相続人の死亡を証する書類、続柄が分かる戸籍または法定相続情報一覧図、申込者の本人確認書類
未支給年金の請求年金受給権者死亡届、請求者の戸籍・住民票、被相続人との生計同一関係を証する書類、振込先の通帳
表3 照会手続きごとの主な必要書類

債務の調べ方|住宅ローン・カード・保証債務

債務の調査は、財産の調査と同じくらい重要です。預金が300万円見つかっても、住宅ローンが2,000万円残っていれば相続する意味は変わります。相続放棄を選ぶかどうかは、プラスとマイナスの差で決まります。ところが、債務は本人が語らない限り家族に見えません。請求書が届かない、口座から自動引き落としされている、などの理由で、存在自体が把握されていないことが少なくありません。

最初に見るのは、通帳の引き落とし履歴です。毎月同じ日に同じ額が出ていればローンかカード、毎月変動していればカードのリボ払いか公共料金、年2回なら固定資産税か保険料。次に、郵便物の差出人と、契約書・返済予定表の有無を確認します。住宅ローンなら返済予定表と団体信用生命保険の証書、カードなら利用明細、リースなら契約書が手がかりです。ここまでで大半の債務は姿を現します。

取りこぼしを防ぐのが信用情報機関の開示です。全国銀行個人信用情報センターは、法定相続人またはその法定代理人(相続財産管理人を含む)に限り、被相続人の登録情報を開示します。JICCは法定相続人または2親等以内の血族、CICも相続人による開示に応じています。いずれも郵送手続きが中心で、被相続人の死亡を証する書類と、続柄が分かる戸籍または法定相続情報一覧図、申込者の本人確認書類が必要です。開示されるのは金融機関の貸付やカードの記録で、滞納した公共料金や私的な借用書までは出てきません。

見落としやすいのが保証債務です。被相続人が知人の借入や会社の借入の保証人になっていた場合、主債務者が返済していれば表には出ません。しかし主債務者が滞納すれば、相続人が保証人としての責任を負う可能性があります。信用情報機関の開示でも分からないことがあるため、契約書、郵便物、そして心当たりの債権者への直接の照会で確認します。保証債務は金額が読めないぶん、相続放棄の判断に与える影響が大きい債務です。

住宅ローンには特有の論点があります。団体信用生命保険に加入していれば、被相続人の死亡により保険金でローンが完済され、残債は相続財産のマイナスになりません。この場合、住宅は債務なしで相続財産に残ります。逆に、団信に加入していない、あるいは加入していても告知義務違反で保険金が支払われない場合は、残債がそのまま債務として相続されます。登記簿に抵当権が残っているのに返済予定表が見つからないときは、金融機関に団信の有無を確認してください。

公的な債務も忘れずに確認します。固定資産税と都市計画税は納税通知書、住民税は納税通知書か普通徴収の納付書、国民健康保険料は納付書で残額が分かります。医療費の未払い、介護サービスの利用料、入院中の差額ベッド代、公共料金の未払い、家賃の未払いも債務です。これらは少額でも、遺産分割の際に「誰が払うのか」でもめる原因になります。金額が確定したものから財産目録に書き込み、プラスとマイナスを同じ表で管理してください。

債務の種類確認先
住宅ローン返済予定表、登記簿の抵当権、融資元の金融機関。団信の有無も確認
カード・カーローン利用明細、信用情報機関の開示、カード会社への照会
事業性の借入決算書、確定申告書、銀行の貸出明細、保証協会の保証承諾書
保証債務保証契約書、郵便物、債権者への直接照会
税金固定資産税・住民税の納税通知書、税務署の滞納確認
公共料金・医療費各事業者の請求書、病院の未払金照会、家賃の賃貸借契約書
表4 債務の種類と確認先

名寄帳の取り方|窓口・手数料・必要書類

名寄帳は、固定資産課税台帳を所有者ごとにまとめ直した資料です。課税台帳が物件ごとの帳簿なのに対し、名寄帳は「この人がこの市区町村に持っている土地と家屋」を一覧で示します。相続の場面で効くのは、物件の存在を知らない状態でも、所有者名で検索して一覧が出てくる点です。課税明細書が手元にない、共有名義で通知が代表者にしか届いていない、昔の住所のままの物件がある。こうした場面で名寄帳が効きます。

最初のつまずきは、請求先です。名寄帳を請求できるのは、物件が所在する市区町村です。被相続人の最後の住所地や、相続人の住民票の市区町村ではありません。千葉県内でも、千葉市の物件なら千葉市、船橋市の物件なら船橋市に請求します。物件が複数の市区町村にまたがる場合は、それぞれの窓口で取得します。

千葉市を例に取ると、名寄帳は市内各区役所の市税事務所市民税課または市税出張所でのみ発行しています。市民センターの窓口では取得できません。手数料は1納税義務者・1課税年度・1区につき300円です。請求できるのは本人または相続人、生計を一にする同居の親族(住民票上同一世帯)、委任状を持参した代理人です。相続人が請求する場合は、窓口に来る人の本人確認書類に加えて、相続権と被相続人の死亡が確認できるもの、具体的には戸籍・除籍謄本や、登記官が証明した法定相続情報一覧図などを提示します。

年度の扱いにも注意が必要です。名寄帳に記載されるのは1月1日時点の納税義務者情報で、最新年度の分は4月1日から取得できます。1月1日から請求日までの間に登記が移っている場合は、登記事項証明書や売買契約書で補います。手数料、様式、郵送請求の可否は市区町村の条例と要領で決まるため、千葉市以外では窓口に確認してください。同じ県内でも、1通200円から300円程度と幅があります。

名寄帳で分からないこともはっきりさせておきます。非課税の資産(公衆用道路、墓地など)は課税台帳に載らないため、名寄帳にも出ません。他都道府県の物件は当然出ません。借地権・借家権、私道の持分、地役権といった権利も、名寄帳の一覧には表れません。逆に、登記がされていない未登記家屋は、固定資産税の課税対象であれば名寄帳に載ることがあります。名寄帳で物件を見つけ、登記で権利関係を確認し、現地で状態を見る。この3段階を踏むと、台帳と登記のズレも説明できます。

相続放棄を考える場合|3か月の期限と調査の関係

相続放棄を考えるなら、期限を最初に確認します。相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを選ばなければなりません(民法第915条第1項本文)。多くの場合、被相続人の死亡を知った日が起算点です。この3か月は「財産を調べて判断するための期間」なので、調査は期限に間に合わせて進める必要があります。

3か月で判断できないときは、家庭裁判所に期間の伸長を申し立てます(同項ただし書)。伸長は自動ではなく、申立てと審判が必要です。相続放棄そのものは、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述します(民法第938条)。申述には収入印紙800円(1人分)と、連絡用の郵便切手がかかります。期限が迫っているのに債務の全容が分からない、という状況こそ伸長の出番です。期限を過ぎてしまうと、原則として放棄は認められなくなります。

「調査をしたら放棄できなくなるのでは」と心配する方がいますが、調査そのものは放棄を妨げません。問題になるのは処分です。相続財産の全部または一部を処分すると、単純承認をしたものとみなされます(民法第921条第1号)。預金を払い戻す、不動産を売却する、保険を解約する、車を名義変更する。これらは処分に当たります。名寄帳を取る、登記を取る、残高を照会する、といった事実確認は処分ではありません。ただし、どこまでが調査でどこからが処分かは事案によるので、判断が難しい行為は実行前に専門家へ確認してください。

調査の結果、債務が財産を上回ることが分かったら、選択肢は放棄だけではありません。限定承認は、相続で得た財産の範囲で債務を負う制度で、相続人全員が共同して3か月以内に家庭裁判所へ申述します。プラスとマイナスが混在していて、どちらが大きいか読めない場合に検討します。単純承認を選べば、債務は無制限に承継されます。判断の材料は、この記事で整理した財産目録と債務の一覧です。

時期やること
死亡直後〜2週間死亡届、年金・健康保険の届出、郵便物の転送届、通帳・保険証券・納税通知書の捜索
2週間〜1か月戸籍の収集と相続人の確定、課税明細書の確認、法務局で登記取得、名寄帳の請求
1〜2か月金融機関への残高証明請求、相続時預貯金口座照会の申込み、生命保険契約照会、信用情報の開示
2〜3か月債務の確定、財産目録の完成、相続放棄・限定承認の判断と申述(必要な場合は伸長の申立て)
4か月準確定申告(所得税法第125条)。還付申告は5年遡れる
10か月相続税の申告・納付(相続税法第27条第1項)。財産の把握が遅れると修正申告になる
表5 相続財産調査のスケジュールと期限

専門家の役割分担|行政書士に頼める範囲

財産調査は自分でもできますが、書類の種類と取得先が多いため、どこまでを自分でやり、どこからを専門家に渡すかを決めておくと進みます。行政書士の業務は、官公署に提出する書類、権利義務に関する書類、事実証明に関する書類の作成と、その相談、提出手続の代行です(行政書士法第1条の2、第1条の3第1項)。相続の場面では、戸籍の収集、名寄帳や評価証明書の取得、財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、法定相続情報一覧図の申出を代理人として行うことができます。

できないことも明確です。不動産の登記申請を代理できるのは司法書士で(司法書士法第3条)、相続登記そのものは行政書士の業務ではありません。相続税の申告と税額計算は税理士の領域です(税理士法第2条)。相続人同士が対立している場合の交渉、調停や審判の代理は弁護士の領域で、報酬を得る目的で争いのある法律事務を代理することは弁護士法第72条で禁止されています。行政書士が作れるのは、争いのない合意を書面にする部分までです。

実務的な分担はこうなります。財産の洗い出し、書類の収集、名寄帳や登記の取得代行、財産目録の作成、協議書の作成は行政書士。相続登記と抵当権の抹消は司法書士。相続税の要否判定と申告は税理士。遺産分割がまとまらない、保証債務の範囲が争いになる、相続人に行方不明者がいる、といった場合は弁護士。最初の相談で財産目録まで作ってしまえば、その後の専門家への引き継ぎが一度で済みます。

専門家の種類担える範囲
行政書士戸籍収集、名寄帳・評価証明の取得、財産目録の作成、遺産分割協議書の作成、法定相続情報一覧図の申出
司法書士相続登記、抵当権の抹消、登記申請の代理(司法書士法第3条)
税理士相続税の要否判定、課税価格の計算、申告書の作成(税理士法第2条)
弁護士相続人間の交渉、調停・審判の代理、遺留分の請求(弁護士法第72条)
表6 財産調査に関わる専門家の役割分担

よくある質問

通帳が見つからないとき、口座はどうやって探せばいいですか

郵便物の転送届を出して届いた郵便物の差出人を拾い、並行して相続時預貯金口座照会を申し込むのが最短です。同制度は1件5,060円で、申込みから1か月程度で金融機関名と口座番号が分かります。ただし残高は分からず、マイナンバーを紐付けていない口座は対象外です。照会で見つかった金融機関と、郵便物から推測した金融機関の両方に残高証明を請求してください。

名寄帳と固定資産評価証明書は何が違いますか

名寄帳は「その人がその市区町村に持っている土地・家屋の一覧」で、所在・地目・地積・評価額が並びます。固定資産評価証明書は「特定の物件の評価額を証明する書類」で、相続登記の登録免許税の計算に使います。漏れなく探すなら名寄帳、金額を確定するなら評価証明書という使い分けです。どちらも物件所在地の市区町村で取得します。

借金があるかどうかは、どこまで調べれば分かりますか

通帳の引き落とし履歴、郵便物、契約書で大半は見つかります。加えて、全国銀行個人信用情報センター・JICC・CICの開示を取ると、銀行の貸付とカードの記録が確認できます。ただし保証債務や私的な借用書は出てきません。心当たりがある場合は債権者へ直接照会します。相続放棄を検討しているなら、全額を確定させることより、3か月の期限に間に合わせることを優先してください。

相続放棄をするつもりでも、財産調査をしてもいいですか

調査は問題ありません。名寄帳や登記の取得、残高の照会は事実確認であって処分ではないからです。放棄できなくなるのは、預金の払戻し、不動産の売却、保険の解約など、財産を処分した場合です(民法第921条第1号)。判断がつかないまま期限が近づいたら、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立ててください。

調査はどこまで自分でできて、どこから専門家に頼むべきですか

課税明細書の確認、登記の取得、名寄帳の請求、金融機関への残高証明の請求は、自分でも十分にできます。物件が複数の市区町村にまたがる、共有名義や未登記家屋がある、事業用の資産と債務がある、海外の資産がある、相続人に行方不明者がいる。こうした場合は、途中でやり直すコストのほうが大きくなるので、早めに行政書士か弁護士に相談してください。

まとめ

相続財産調査の要点は4つです。第一に、順番は課税明細書と登記、金融機関への照会、債務の確認。第二に、不動産は課税明細書・登記・名寄帳の3点で突き合わせ、名寄帳は物件所在地の市区町村で取る。第三に、通帳がないときは相続時預貯金口座照会、保険は生命保険契約照会を使い、どちらも残高や契約内容までは分からない前提で次に進む。第四に、相続放棄の3か月と相続税の10か月を最初にカレンダーへ入れておく。

財産の全体像がつかめたら、次は遺産分割の協議と、不動産の名義変更、相続税の要否判定に進みます。協議書の作り方は遺産分割協議書の書き方、手続き全体の順序と期限は相続手続きの流れ、戸籍の集め方は戸籍の各種届出手続き、相続人の確定は相続人調査の流れと手順で確認できます。財産が見つからない、債務の全容が分からないという段階でも、相談は早いほうが選択肢が残ります。