公正証書遺言は、公証役場で公証人が作成し、証人2人の立会いのもとで成立する遺言です。家庭裁判所の検認は不要で、原本は公証役場に残ります。用意するものは「本人確認」「相続関係」「財産」の3系統に整理できます。手書きが苦手な方、財産の名義が複雑な方、相続人の間で争いが予想される方にとって、方式の不備で無効になるリスクを最初から消せる点が最大の強みです。以下では、作成の流れ、必要書類、証人の要件、目的価額で決まる手数料、そして行政書士に頼める範囲まで、根拠条文と公的な資料を添えて順に説明します。

公正証書遺言とは|公証人が作成し、証人2人が立ち会う

公正証書遺言は、民法969条が定める方式に従って作る遺言です。同条1項が求めているのは2つだけで、証人2人以上の立会い(1号)と、遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること(2号)です。遺言者自身が全文を書く必要はなく、パソコンで原案を作って持参してもかまいません。

条文を読むときに注意したいのは、民法969条だけでは作成手続の全体像がつかめない点です。同条2項は「前項の公正証書は、公証人法の定めるところにより作成するものとする」と定め、具体的な手続を公証人法に委ねています。実際の流れは、公証人が遺言者の口述を筆記し、その内容を遺言者と証人に読み聞かせ、または閲覧させ、記載が正確であることを承認させたうえで署名する、という順序です(公証人法40条1項・4項・5項)。つまり公正証書遺言は、遺言者・証人・公証人の3者が同じ場で内容を確認し合う手続だといえます。

作成された公正証書の原本は公証人が保存します(公証人法25条)。遺言者は正本と謄本の交付を受けられますが(同法44条1項)、原本が手元にないため、紛失や隠匿、改ざんの心配がありません。相続が始まった後、相続人などの利害関係者は公証役場で謄本の交付を請求できます(同法43条1項)。

令和7年(2025年)からは、公正証書の電子化が進んでいます。公証人法36条は、公正証書を原則として電磁的記録で作成し、電磁的記録での作成に困難な事情がある場合に書面で作成すると定めています。電磁的記録で作成された遺言公正証書の原本は、日本公証人連合会が運営するシステムで保存され、電磁的記録で作成された場合でも、その内容を記載した書面の交付を請求できます(同法44条1項2号)。手続の内容が変わるわけではありませんが、受け取るものの形が変わりつつある点は知っておくと役立ちます。

なお、遺言をすることができるのは15歳に達した者です(民法961条)。成年被後見人の方が遺言をする場合は、事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いが必要になります(同法973条)。

公正証書遺言は年々増えており、日本公証人連合会の公表によると、令和7年1月から12月までの1年間に全国で作成された遺言公正証書は123891件でした。令和2年に9万7700件まで落ち込みましたが、令和6年は12万8378件まで戻り、令和7年は12万3891件でした(同連合会「令和7年の遺言公正証書作成件数について」2026年3月23日公表)。

自筆証書遺言との違い|変わるのは「検認」と「保管」

遺言の方式は自筆証書・公正証書・秘密証書の3つです(民法967条)。実務で比較されるのは自筆証書遺言と公正証書遺言なので、この2つに絞って違いを整理します。結論からいうと、決定的に違うのは「検認が必要かどうか」と「原本がどこにあるか」の2点で、費用と手間はその代償です。

公正証書遺言自筆証書遺言
公証人が作成する(遺言者は口述する)遺言者が全文・日付・氏名を自書し押印
証人2人以上の立会いが必須証人は不要
検認は不要自宅保管なら検認が必要。法務局保管なら不要
原本は公証役場(電子化後は日公連のシステム)自宅、または法務局の遺言書保管所
目的価額に応じた公証人手数料自分で書くので作成は無料
方式の不備は起きにくい日付・署名・押印の不備で無効になり得る
書き換えは新しい遺言を作る同じく新しい遺言を作る
表1 公正証書遺言と自筆証書遺言の違い

自筆証書遺言は、財産目録を除いて全文を自分で手書きし、日付と氏名を書いて押印する必要があります(民法968条1項)。財産目録を添付する場合、目録は自書でなくてもかまいませんが、毎葉に署名と押印が要ります(同条2項)。この方式を一つでも外すと遺言全体が無効になるため、実務では「書いたつもりで無効だった」という事故が起きます。

自筆証書遺言を自宅で保管した場合、相続の開始後に家庭裁判所で検認を受けなければなりません(民法1004条1項)。検認を経ずに遺言を執行したり、家庭裁判所の外で封を開けたりすると、5万円以下の過料の対象になります(同法1005条)。これに対し、法務局の遺言書保管制度を利用した自筆証書遺言は、遺言書情報証明書の交付を受ければ検認が不要です(法務局における遺言書の保管等に関する法律11条)。

法務局の保管制度は令和2年7月10日に始まり、保管の申請は1通3900円、遺言書情報証明書の交付は1通1400円です(同法関係手数料令1条)。自筆証書遺言を選ぶ場合でも、この制度を使えば「紛失」と「検認」の2つの弱点は解消できます。3つの方式の特徴と選び分けは遺言の種類と作成方法の比較で詳しく整理しています。

では公正証書遺言を選ぶべきなのはどんな場合か。判断のポイントは3つです。第一に、手書きに自信がない、または体力の低下が心配な場合。第二に、不動産の共有持分や事業用資産など、財産の特定に手間がかかる場合。第三に、相続人の間で意見が分かれそうな場合です。逆に、財産が少なく内容も単純で、自分で全文を書けるなら、自筆証書遺言と法務局保管の組み合わせでも十分に目的を達せられます。

作成の流れ|相談から正本の受け取りまで

公正証書遺言の作成は、大きく7つの段階に分かれます。ポイントは、公証役場に行く前に内容と書類を固めておくことです。当日の作業は口述と確認が中心で、原案がなくても作成はできますが、その場で内容を考えると時間がかかり、聞き直しも増えます。

  • 1. 誰に何を残すかを決める 財産の分け方だけでなく、遺言執行者を置くか、祭祀の主宰者を誰にするかも決めます。
  • 2. 財産を洗い出す 不動産・預貯金・有価証券・保険・車両・債務を一覧にします。不動産の所在や地番、金融機関の支店と口座番号まで特定しておくと、証書の記載が具体的になります。
  • 3. 相続人を確定する 戸籍を集めて、誰が相続人かを確定します。遺言で財産を渡す相手が相続人でない場合は、その方の住民票など住所の分かる資料も必要です。
  • 4. 公証役場へ事前相談と予約 原案と資料を持ち込んで相談します。公証業務に関する相談は無料です(日本公証人連合会)。役場によって予約の取り方が違うため、早めに連絡しておきます。
  • 5. 証人2人を手配する 証人は遺言者が選定します(公証人法35条1項)。適当な人がいない場合は、公証役場で紹介の相談に応じてもらえることがあります。
  • 6. 当日、公証役場で作成する 本人確認、口述、公証人による筆記、読み聞かせ、承認、署名という順に進みます。所要時間は内容の複雑さによって変わります。
  • 7. 正本と謄本を受け取り、手数料を支払う 手数料は、原則として証書の正本等を交付する時に現金またはクレジットカードで支払います(日本公証人連合会)。

2段階目の財産の洗い出しは、相続税の申告や遺産分割の準備と共通する作業です。調べる順番と取得できる書類は相続財産調査のやり方で、3段階目の戸籍の集め方は相続人調査の流れで詳しく説明しています。

公証役場に出向くのが難しい場合には、別の方法があります。公証人法49条は、遺言公正証書について例外的に役場以外の場所で職務を行うことを認めています。高齢や病気で外出が難しいときは、自宅、介護施設、病院などに公証人が出張して作成できます。この場合、通常の手数料に加えて日当と旅費がかかります(公証人手数料令43条)。

また、離島などで公証役場へのアクセスが難しい場合には、ウェブ会議で公証人と面談する方法が認められているケースもあります。要件を満たすかどうかは事案によるため、個別に公証役場へ確認してください。

必要書類|「本人確認」「相続関係」「財産」の3系統

必要書類は数多く見えますが、役割で分けると3系統しかありません。誰が遺言するのか(本人確認)、誰が相続人か(相続関係)、何を遺すのか(財産)の3つです。この順に揃えると、不足に気づきやすくなります。

書類何のために必要か
印鑑登録証明書(発行後3か月以内)と実印遺言者本人であることの確認と、証書への押印。写しではなく原本を持参
顔写真付きの公的身分証明書印鑑登録証明書に代えて本人確認に使える(運転免許証、マイナンバーカード、旅券など)
遺言者と相続人の続柄が分かる戸籍謄本・除籍謄本誰が相続人かを確定するため。甥・姪などは続柄の分かる戸籍を追加で
受遺者の住民票など住所の分かる資料相続人以外に財産を遺贈する場合。法人あてなら登記事項証明書
登記事項証明書(不動産)所在・地番・地積などを証書に特定して記載するため
固定資産評価証明書または課税明細書不動産の価額を確認するため。手数料の目的価額の算定にも関わる
預貯金通帳またはそのコピー金融機関・支店・口座番号を特定するため
証人の住所・氏名・生年月日が分かる資料証人の本人確認のため。運転免許証のコピーなど
表2 公正証書遺言の必要書類

この一覧は日本公証人連合会が公表している必要書類に沿ったものです。ただし、事案によって追加の資料を求められることがあるため、最終的な確認は利用する公証役場で行ってください。

書類の取得先も押さえておきましょう。印鑑登録証明書は市区町村の窓口かコンビニ交付で取得します。戸籍は本籍地の市区町村で取得するのが基本ですが、令和6年3月1日からは戸籍の広域交付が始まり、最寄りの市区町村でも取得できるようになりました。ただし請求できるのは本人・配偶者・直系尊属・直系卑属に限られ、兄弟姉妹や甥・姪の戸籍は広域交付では取れません。郵送や代理人による請求もできません。

不動産の登記事項証明書は法務局の窓口かオンラインで取得します。手数料は令和7年4月1日改定で、オンライン請求して窓口で受け取る場合は1通490円、書面で請求する場合は600円です(法務省「登記手数料について」)。固定資産評価証明書は物件所在地の市区町村で取得します。

なお、相続人の戸籍がそろわない、行方が分からないという場合は、遺言の作成を止める理由にはなりません。遺言は自分が誰に何を残すかを決めるものなので、相続人の特定に不安が残る場合は、その旨を公証人に伝えたうえで進め方を相談するのが現実的です。

証人の要件|頼める人と、頼めない人

証人2人の立会いは、公正証書遺言の成立要件です。1人でも欠けると方式違反になります。誰に頼めるかは民法974条が限定しており、ここを外すと遺言全体が無効になります。

民法974条が証人になれないとするのは、①未成年者、②推定相続人および受遺者ならびにこれらの配偶者と直系血族、③公証人の配偶者、四親等内の親族、書記および使用人、の3類型です。

ここで押さえておきたいのは、遺言の証人については公証人法35条3項の欠格事由が適用されないという点です。民法969条3項は、遺言の証人を公証人法30条の証人とみなして同法の規定を適用する際、「同法第35条第3項の規定を除く」と明記しています。つまり「嘱託事項について利害関係を有する者」といった公証人法上の広い欠格事由は働かず、判断の基準は民法974条の3類型に絞られます。

区分該当する人
なれない:未成年者18歳未満の方(民法4条)。成年年齢の引上げ後も遺言の証人にはなれない
なれない:推定相続人と受遺者配偶者、子、親など、遺言で財産を受け取る立場の人
なれない:その配偶者と直系血族子の配偶者、孫、親の親など。財産を受け取る人の家族も外れる
なれない:公証人側の関係者公証人の配偶者、四親等内の親族、書記、使用人
なれる:上記以外の第三者友人、知人、職場の同僚、行政書士や司法書士などの士業
表3 証人になれる人・なれない人

実務では「相続で財産をもらう人と、その家族は避ける」と覚えておけば足ります。血縁のない第三者に頼むのが最も安全ですが、証人には遺言の内容が伝わります。プライバシーを重視する場合は、秘密保持を前提に信頼できる人へ依頼するか、公証役場に紹介の相談をしてください。

証人は遺言者が選定するのが原則です(公証人法35条1項)。当日は証人の住所・氏名・生年月日が分かる資料を持参してもらいます。証人を2人そろえるのが難しいときは、日程を分けずに一度で済ませるためにも、早い段階で候補者に声をかけておきましょう。

費用|公証人手数料は「目的価額×人数」で決まる

公正証書遺言の費用は「数万円から十数万円が相場」と説明されることが多いですが、実際は公証人手数料令の別表で機械的に決まります。金額を左右するのは、遺言で承継させる財産の価額(目的価額)と、財産を受け取る人の人数の2つです。

計算の基本は、法律行為に係る公正証書の手数料(公証人手数料令9条・別表)に、遺言の加算1万3000円を足すという形です(同令19条1項)。ただし、目的価額が1億円を超える場合はこの加算はありません。

ここで見落とされやすいのが、遺言は相続人・受遺者ごとに別個の法律行為として計算するという点です(日本公証人連合会の解説)。たとえば1億円の財産を配偶者1人に承継させる場合、目的価額1億円の手数料4万9000円に加算1万3000円を足して6万2000円です。これが配偶者6000万円・長男4000万円に分けると、4万9000円と3万3000円の合計8万2000円に加算1万3000円で9万5000円になります。同じ財産額でも、分ける人数が増えるほど手数料は上がります。

遺言で承継させる財産の価額手数料(加算込み)
50万円以下1万6000円
100万円以下1万8000円
200万円以下2万円
500万円以下2万6000円
1000万円以下3万3000円
3000万円以下3万9000円
5000万円以下4万6000円
1億円以下6万2000円
1億円超4万9000円+超過額5000万円ごとに1万5000円(加算なし)
表4 財産の価額別・手数料の目安(1人が全部を承継する場合)

この表は、財産を1人に承継させる場合の基本料です。実際にはこれに次の加算が付きます。枚数加算は同令25条1項、病床執務加算は同令32条、出張の日当と旅費は同令43条、撤回は同令19条2項が根拠です。

加算の種類内容
遺言の加算目的価額が1億円以下のとき1万3000円
枚数による加算公正証書が4枚(横書きは3枚)を超えるとき、超えた1枚ごとに300円
病床での作成病床で作成したとき、手数料の2分の1を加算
出張の日当・旅費自宅や病院へ出張する場合、日当2万円(4時間以内は1万円)と実費
撤回する場合全部または一部を取り消す公正証書は1万3000円
表5 手数料に加わるもの

手数料の支払いは、原則として証書の正本等を交付する時です。現金またはクレジットカードで支払うのが一般的で、事前に概算額の予納を求められることもあります(同令6条)。公証役場での相談自体は無料なので、金額が読めない場合は原案の段階で見積もりを聞いておくと安心です。

なお、ここで挙げたのは公証人に支払う手数料だけです。行政書士などの専門家に作成支援を依頼する場合は、別に報酬がかかります。戸籍や登記事項証明書などの取得費用も自己負担です。

効力と撤回、検認|遺言者の死亡後に何が起きるか

公正証書遺言は作って終わりではありません。いつ効力が生じるのか、生きている間に変更できるのか、相続が始まった後に何が必要なのかを押さえておくと、作成後の不安が減ります。

効力が生じるのは遺言者の死亡の時

遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生じます(民法985条1項)。作成した時点で財産が動くわけではなく、遺言者が生きている間は、相続人や受遺者は何も主張できません。停止条件を付した場合には、その条件が死亡後に成就した時から効力が生じます(同条2項)。

相続が始まったら、遺言の内容を実現するのが遺言執行者です。遺言で指定でき(民法1006条1項)、指定された者は任務を開始したら遅延なく遺言の内容を相続人に通知します(同法1007条2項)。遺言執行者は相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権限を持ち、遺贈の履行は遺言執行者のみが行えます(同法1012条)。資格に制限はなく、未成年者と破産者以外は就任できます(同法1009条)。

生前はいつでも撤回できる

遺言者は、いつでも、遺言の方式に従ってその遺言の全部または一部を撤回できます(民法1022条)。前の遺言と後の遺言が抵触するときは、抵触する部分について後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなされます(同法1023条1項)。遺言者が故意に遺言書を破棄したときも、その部分については撤回したものとみなされます(同法1024条)。

重要なのは、撤回する権利を放棄できないという点です(民法1026条)。「もう変更しない」と約束しても、法的には縛られません。また、一度撤回した遺言は、撤回行為が取り消されても効力を回復しません(同法1025条)。財産や家族関係が変わったら、新しい遺言を作り直すのが基本です。

作り直すときは、新しい遺言を作成する方法と、撤回の公正証書を作る方法があります。撤回の公正証書の手数料は1万3000円です(公証人手数料令19条2項)。新しい遺言を作れば、抵触する部分は当然に撤回されたものとみなされます。

遺留分は遺言でもなくならない

遺言で財産の行き先を決めても、一定の相続人には遺留分が残ります。遺留分を持つのは兄弟姉妹以外の相続人で、直系尊属のみが相続人である場合は相続財産の3分の1、それ以外の場合は2分の1です(民法1042条1項)。

遺留分を侵害された相続人は、受遺者や受贈者に対して、侵害額に相当する金銭の支払を請求できます(民法1046条1項)。この請求権は、相続の開始と侵害を知った時から1年、相続開始から10年が経過すると時効で消滅します(同法1048条)。遺留分の計算方法と請求の期限は相続手続きの流れと期限で整理しています。

検認が不要な理由

公正証書遺言には、家庭裁判所の検認が不要です。民法1004条1項は遺言書の保管者に検認の請求を義務づけていますが、同条2項が「前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない」と明記しています。

検認とは何かをつかんでおくと、なぜ不要なのかが分かります。最高裁判所の説明によると、検認は「相続人に対し遺言の存在及びその内容を知らせるとともに、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名など検認の日現在における遺言書の内容を明確にして、遺言書の偽造・変造を防止するための手続」であり、遺言の有効・無効を判断する手続ではありません。

自筆証書遺言は遺言者自身が書くため、書いた後に加筆や改変がされたかを確かめる必要があります。だからこそ、相続開始後に裁判所の立会いのもとで形状を確定させる検認が要ります。これに対し公正証書遺言は、作成の時点で公証人が関与し、遺言者と証人の面前で内容を確認して署名しているため、後から形状を確定させる必要がありません。これが検認不要の理由です。

検認が不要な分、相続開始後すぐに遺言の内容を実行できます。自筆証書遺言を自宅で保管していた場合は、検認の申立てに収入印紙800円(遺言書1通につき)と郵便切手が必要で、検認済証明書の申請にも1通150円分の収入印紙がかかります(最高裁判所「遺言書の検認」)。この時間と費用がまるごと省略できるのは、公正証書遺言の実務上のメリットです。

ただし、検認が不要でも、遺言の有効性を争う訴訟が起こせなくなるわけではありません。また、被相続人が公正証書遺言をしていたかどうかは、相続開始後に全国の公証役場で照会できます(平成元年以降に作成されたものが対象)。相続が始まったら、まず公証役場で遺言の有無を確認するのが第一歩です。

行政書士に頼める範囲|できること・できないこと

公正証書遺言の作成を行政書士に頼めるのか、という質問は少なくありません。結論は、「内容の整理と書類の準備は頼めるが、公正証書そのものを作るのは公証人」です。ここは行政書士法と民法の役割分担で決まります。

行政書士は、他人の依頼を受けて報酬を得て、官公署に提出する書類その他権利義務または事実証明に関する書類を作成することを業としています(行政書士法1条の3第1項)。遺言書は「権利義務に関する書類」に当たるため、その文案の作成や相談は行政書士の業務に含まれます(同法1条の4第1項4号)。

一方で、できないことが3つあります。第一に、公正証書遺言そのものを作成することです。公正証書は公証人が作成するものであり(民法969条2項)、行政書士が代わって作ることはできません。第二に、代理して遺言をすることです。民法969条2号は遺言者本人が公証人に口授することを求めており、代理人が遺言者に代わって口述することはできません。第三に、他の法律で制限されている業務です(行政書士法1条の3第2項)。具体的には、不動産の登記申請の代理は司法書士(司法書士法3条)、相続税の申告は税理士(税理士法)、争いのある遺産分割の代理交渉や調停の代理は弁護士(弁護士法72条)の領域です。

実際に行政書士が担うのは、次のような周辺業務です。

  • 財産の洗い出しと財産目録の作成(不動産・預貯金・保険・債務の整理)
  • 相続人の確定のための戸籍収集と続柄の整理
  • 遺言の原案(文案)の作成支援と、公証人への事前相談の準備
  • 必要書類の準備と、公証役場との日程調整
  • 作成当日の同行、および作成後の各種手続の案内

遺言執行者には資格の制限がないため(民法1009条)、行政書士が遺言執行者に就任することもできます。遺言執行者は相続財産の目録を作成して相続人に交付する義務を負い(同法1011条1項)、遺贈の履行を行います(同法1012条2項)。

千葉県にお住まいの方は、千葉地方法務局の管轄区域内の公証役場を利用することになります。公証人の職務執行の区域は所属する法務局または地方法務局の管轄区域によるためです(公証人法17条)。県内には複数の公証役場があり、所在地や予約の状況は日本公証人連合会の公証役場一覧で確認できます。どの役場を選ぶかは、移動のしやすさと予約の取りやすさで決めてかまいません。

よくある質問

公正証書遺言は何歳から作れますか

15歳に達した者であれば遺言をすることができます(民法961条)。年齢の上限はありません。成年被後見人の方が遺言をする場合は、事理を弁識する能力を一時回復した時に、医師2人以上の立会いが必要です(同法973条)。

証人が2人そろいません。どうすればよいですか

まずは公証役場に相談してください。適当な証人がいない場合、公証役場で証人を紹介してもらえることがあります(日本公証人連合会)。ただし、証人を選定するのは遺言者です(公証人法35条1項)。推定相続人や受遺者、その配偶者と直系血族、未成年者は証人になれないため(民法974条)、親族以外に声をかけるのが現実的です。

作った後に内容を変えたいときはどうしますか

新しい遺言を作るか、撤回の公正証書を作成します。遺言者はいつでも遺言を撤回でき(民法1022条)、撤回する権利を放棄することはできません(同法1026条)。撤回の公正証書の手数料は1万3000円です(公証人手数料令19条2項)。財産や家族関係が変わったら、そのままにせず作り直すことをおすすめします。

手書きができなくても公正証書遺言は作れますか

作れます。公正証書遺言では遺言者が全文を自書する必要がなく、公証人が口述を筆記します(民法969条)。病気などで電子サインができない場合でも、公証人がその旨を公正証書に記録または記載して作成できることが法務省令で認められています(日本公証人連合会)。口がきけない場合は通訳人を介する方法が定められています(公証人法29条)。

費用はいつ、どのように支払いますか

原則として、証書の正本等を交付する時に支払います。現金またはクレジットカードでの支払いが一般的です(日本公証人連合会)。金額は目的価額と財産を受け取る人数で決まり、たとえば1億円の財産を1人に承継させる場合は6万2000円です。事前に概算額の予納を求められることもあります(公証人手数料令6条)。

まとめ

公正証書遺言は、公証人が作成し、証人2人が立ち会う遺言です。遺言者が全文を書く必要がなく、方式の不備で無効になるリスクを最初から抑えられ、家庭裁判所の検認も不要です。相続が始まった後すぐに内容を実行できる点は、自筆証書遺言にはない強みです。

押さえるべき点は3つあります。1つ目は必要書類で、本人確認・相続関係・財産の3系統に分けて揃えます。2つ目は証人で、推定相続人と受遺者、その配偶者と直系血族、未成年者は頼めません。3つ目は費用で、目的価額と財産を受け取る人数で決まり、1億円を1人に承継させる場合は6万2000円が目安です。

作成した後の遺産分割の進め方は遺産分割協議書の書き方で、相続全体の期限と手続きは相続手続きの流れで整理しています。財産の整理に不安がある場合は、公証役場の無料相談を利用したうえで、必要に応じて行政書士などの専門家に書類準備を依頼すると、作成当日の負担を減らせます。