「うちは今まで民間工事しかやってこなかったから、建設業許可は取れないんじゃない?」

建設業者の方から、こんな質問をいただくことがあります。

結論からいうと、民間工事しか経験がない会社でも、建設業許可を取得することは可能です。

建設業許可を取得するために、「公共工事をやった経験」が必ず必要になるわけではありません。

そもそも建設業許可は、公共工事をするためだけの制度ではありません。

建設業法では、建設工事の完成を請け負うことを営業する場合、原則として建設業許可が必要とされています。これは公共工事なのか民間工事なのかを問いません。もっとも、一定の「軽微な建設工事」のみを請け負う場合は、許可がなくても営業できます。 (国土交通省⁠)

では、なぜ「民間工事しかやっていないと許可が取れない」と思われるのでしょうか。

今回は、民間工事を中心に行ってきた会社が建設業許可を取得する場合に、特に重要になるポイントを解説します。



そもそも「民間工事」と「公共工事」で許可の条件は違う?

まず押さえておきたいのが、

建設業許可を取得するための基本的な要件は、工事の発注者が民間か公共かによって決まるものではない

ということです。

たとえば、

・一般企業から工事を請け負ってきた
・個人のお客様から工事を請け負ってきた
・ハウスメーカーや工務店から工事を請け負ってきた
・元請会社から下請工事を請け負ってきた

このような民間工事の経験でも、建設業許可の要件を確認する際の実務経験として認められる可能性があります。

重要なのは「民間工事だったか、公共工事だったか」ではありません。

どのような建設工事を、どのような立場で、どのくらいの期間行ってきたのか。そして、それを証明できるのか。

ここが重要になります。



一番重要なのは「どんな工事をしてきたか」

建設業許可は「建設業」という大きな括りで一つの許可を取るわけではありません。

建設業許可は、工事の種類ごとに取得する仕組みになっています。

現在、建設工事は、

・土木一式工事
・建築一式工事

に加えて、27の専門工事を合わせた29業種に分類されています。 (国土交通省⁠)

そのため、

「10年間建設業をやっています!」

というだけでは、必ずしも希望する業種の許可が取得できるとは限りません。

たとえば、電気工事を中心に10年間仕事をしてきた会社が、「建築一式工事」の実務経験が10年間あることになるわけではありません。

反対に、これまで民間の住宅や店舗などで電気工事を行ってきたのであれば、その工事内容によっては電気工事業の許可を取得するための実務経験として確認できる可能性があります。

つまり、

「民間工事しかしていない」

ということよりも、

「どの業種の工事をしてきたのか」

を確認することが大切です。



実務経験は「10年」が基本?

一般建設業の許可を取得する場合、営業所ごとに一定の要件を満たした専任技術者を置く必要があります。

その専任技術者について、資格だけではなく、実務経験によって要件を満たす方法があります。

国土交通省の案内では、一般建設業の専任技術者について、一定の場合に、

許可を受けようとする建設業に係る建設工事について10年以上の実務経験を有する者

が要件を満たす方法の一つとして示されています。 (国土交通省⁠)

つまり、

「資格を持っていないから絶対に許可が取れない」

ということでもありません。

実務経験によって要件を満たせるケースがあります。

ただし、ここで注意したいのが、

「10年間会社に在籍していた」=「10年間の実務経験がある」

とは限らないということです。

どの工事に従事していたのか、どのような業務を行っていたのかなどを確認する必要があります。



「民間工事の実績」はどうやって証明する?

ここが、実際の許可申請で悩みやすいポイントです。

「うちは10年以上民間工事をやっています」

と言っても、申請ではそれだけで終わるわけではありません。

実務経験を要件として申請する場合、その経験を行政庁に対してどのように証明するのかが重要になります。

たとえば、

・工事請負契約書
・注文書
・請書
・請求書
・入金記録
・工事台帳
・施工記録

など、実務経験を裏付ける資料を確認することがあります。

ただし、必要書類や証明方法は、許可行政庁や申請内容によって異なる場合があります。

そのため、

「昔の書類なんて残ってない!」

という会社は、早めに確認しておくことをおすすめします。

特に、長年民間工事を続けてきた会社の場合、

「工事はたくさんやってきたけど、昔の契約書が見つからない」

というケースもあります。

このような場合でも、すぐに「許可が取れない」と判断するのではなく、現在手元にある資料や、発注者・元請会社との関係などを含めて、どのように実務経験を証明できるのかを確認することが大切です。



「下請工事しかやっていない」場合は?

これもよくある質問です。

「うちはずっと下請だったから、建設業許可なんて取れないですよね?」

結論として、下請工事しか経験していないことだけを理由に、建設業許可が取得できないわけではありません。

重要なのは、下請として実際にどのような建設工事を行ってきたのかです。

例えば、

元請会社から電気工事を請け負っていたのであれば、電気工事に関する実務経験として検討することができます。

ただし、「下請だから何でも実務経験になる」という意味ではありません。

あくまでも、申請する業種に対応した建設工事の経験なのかを確認する必要があります。

そのため、

「何年間やっていたか」

だけではなく、

「何の工事をやっていたのか」

を整理することが重要です。



「500万円未満の工事しかしてこなかった」場合は?

ここも勘違いされやすいポイントです。

建設業許可がなくても、一定の軽微な建設工事であれば請け負うことができます。

原則として、建築一式工事以外では、1件の請負代金が500万円未満の工事などが「軽微な建設工事」に該当します。

建築一式工事については、請負代金1,500万円未満など、別の基準があります。 (e-Gov 法令検索⁠)

そのため、

「今まで500万円未満の工事ばかりだったから、許可は取れない」

というわけではありません。

むしろ、

「これまでは許可が必要ない規模の工事を中心にやってきたけれど、今後は500万円以上の工事も受注したい」

という場合に、建設業許可の取得を検討する会社もあります。



「公共工事を受注したい」なら、さらに考えることがある

ここで一つ注意があります。

建設業許可を取得したからといって、すぐに公共工事を受注できるようになるわけではありません。

公共工事を受注するためには、建設業許可とは別に、入札参加資格や経営事項審査など、さらに検討すべき手続きがあります。

つまり、

建設業許可=公共工事に入札できる

という単純な仕組みではありません。

ただし、

「今まで民間工事しかしていなかったけれど、これから公共工事にも参入したい」

という会社にとって、建設業許可は重要なスタート地点の一つになります。



民間工事の会社が許可取得を考えるなら、まず何を整理する?

ここまで読んで、

「じゃあ、うちの場合は取れるの?」

と思った方も多いと思います。

まずは、次の5つを整理してみましょう。

どんな工事をしてきた?

「建設工事」と一括りにするのではなく、

・電気工事
・管工事
・内装工事
・塗装工事
・防水工事
・屋根工事
・大工工事
・解体工事

など、具体的な工事内容を整理します。

何年間やってきた?

会社としての営業年数だけではなく、許可を取得する際に技術者として配置する人が、どのくらい実務経験を積んでいるのかを確認します。

誰が工事をしていた?

社長なのか、従業員なのか。

また、現在もその人が在籍しているのかなども重要になります。

工事を証明できる資料はある?

契約書、注文書、請求書など、工事実績を確認できる資料を整理します。

今後、どの業種の許可が必要?

「とりあえず建設業許可」ではなく、

「今後どんな工事を受注したいのか」

から逆算して、必要な業種を考えることが大切です。



「民間工事しかしていない」は、諦める理由にならない

建設業許可を検討するとき、

「うちは公共工事をやったことがないから……」

と最初から諦めてしまう会社があります。

しかし、建設業許可について重要なのは、公共工事の経験があるかどうかだけではありません。

これまで行ってきた民間工事について、

どの業種の工事なのか。

どのくらいの実務経験があるのか。

その経験をどのように証明できるのか。

この3点をしっかり確認することが重要です。

むしろ、長年民間工事を続けてきた会社であれば、知らないうちに許可取得に必要な実務経験を積んでいるケースもあります。

もちろん、実際に許可を取得できるかどうかは、会社の状況、技術者の資格・経験、経営業務の体制、財産的基礎、必要な証明書類など、複数の要件を確認する必要があります。

建設業許可は「民間か公共か」だけで判断するものではありません。



まとめ

「今まで民間工事しかやってこなかったけど、建設業許可って取れるの?」

答えは、

「民間工事しかしていなくても、建設業許可を取得できる可能性は十分あります。」

です。

建設業許可では、公共工事の経験が必須というわけではありません。

大切なのは、

これまでどんな工事をしてきたのか

どの業種の許可を取得したいのか

必要な実務経験や資格を満たしているのか

その経験を証明できる資料があるのか

を一つずつ確認することです。

「民間工事しかやっていないから無理」

「下請しかやっていないから無理」

「500万円未満の工事しかやっていないから無理」

と決めつける必要はありません。

これまでの工事実績を一度整理してみると、建設業許可取得への道筋が見えてくるかもしれません。

そして、もし今後、

「もっと大きな工事を受注したい」

「元請工事を増やしたい」

「公共工事にも挑戦したい」

「取引先から建設業許可を求められた」

と考えているのであれば、早めに自社の許可要件を確認しておくことをおすすめします。

建設業許可は、これまでの実績を活かして、これから事業を広げていくための一つの大きなステップです。

まずは、「自分の会社は何の工事を、どれくらいの期間やってきたのか」を整理するところから始めてみましょう。