個人事業主として建設業を続けていると、事業の成長に伴って「そろそろ法人化しようかな」と考えることもあるのではないでしょうか。
取引先から法人化を勧められた、従業員が増えてきた、今後さらに事業を拡大したいなど、法人化を検討するきっかけはさまざまです。
そこで、すでに建設業許可を取得している方に、法人化する前にぜひ確認していただきたいことがあります。
それは、
「個人で取得した建設業許可は、法人化したらどうなるの?」
という問題です。
「代表者は自分のままだから、今持っている許可をそのまま会社でも使えるのでは?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、個人事業主と法人は別の事業主体です。そのため、法人を設立しただけで、個人事業主として取得していた建設業許可が自動的に法人へ移るわけではありません。
一方、現在の建設業法には、一定の要件を満たし、あらかじめ認可を受けることで、建設業者としての地位を承継できる制度があります。
今回は、千葉県知事の建設業許可を受けている個人事業主の方が法人化するケースを中心に、建設業許可の引継ぎと注意点についてわかりやすく解説します。
個人の建設業許可を法人でそのまま使える?
まず知っておきたいのは、個人事業主と法人は別の事業主体だということです。
たとえば、「山田太郎」という個人事業主が建設業許可を持っていたとします。
その後、山田さんが「株式会社山田建設」を設立して代表取締役になったとしても、「山田太郎」という個人と「株式会社山田建設」という法人は同一ではありません。
代表者が同じだからといって、
「今まで個人で使っていた建設業許可を、そのまま株式会社でも使おう」
ということはできません。
ここは、法人成りをするときに見落としやすいポイントです。
会社の設立準備だけを先に進めてしまい、後になって、
「そういえば、個人で持っている建設業許可はどうなるんだろう?」
と気付くこともあります。
建設業許可を持っている個人事業主の方が法人化する場合は、会社設立と建設業許可を別々に考えるのではなく、最初から一緒に考えておくことが大切です。
法人成りでは建設業許可を「承継」できる制度があります
それでは、法人化する場合、個人の建設業許可を廃業して、法人で新たに許可を取り直さなければならないのでしょうか。
現在は、必ずしもそうではありません。
建設業法には、事業の譲渡や譲受け、合併、分割などが行われる場合に、あらかじめ認可を受けることで、建設業者としての地位を承継できる制度があります。
個人事業主が法人を新設して建設業を引き継ぐ、いわゆる**「法人成り」も、この承継制度の対象となるケースの一つ**です。
千葉県の「建設業許可の承継の手引」でも、個人事業主が法人を新設する法人成りは、「譲渡及び譲受け」による承継として取り扱われています。
この制度を利用して認可を受け、実際に承継が行われると、法人は個人事業主が持っていた許可を含む「建設業者としての地位」を承継することになります。
従来のように、個人の許可を廃業してから法人で新規許可を取得する方法もあります。
しかし、その方法では、個人の許可を廃業してから法人が新しい許可を取得するまでの間、許可業者として営業できない期間が生じます。
法人化後も許可が必要な工事を継続して請け負いたい場合、この違いは非常に重要です。
「法人化してから」ではなく事前の準備が重要です
承継制度を利用するうえで、特に重要なのが手続きのタイミングです。
法人成りによる承継の場合、事業を法人へ譲渡した後になって、
「やっぱり個人の許可を法人へ引き継ぎたい」
と申請して、過去にさかのぼって認可を受けることはできません。
相続を除く承継については、実際に承継が行われる前に申請を行い、認可を受けておく必要があります。
そのため、
「法人化してから建設業許可を考える」のではなく、「法人化を考え始めた段階で建設業許可も一緒に考える」
ことが大切です。
会社を設立するときには、会社名、本店所在地、資本金、役員、事業目的など、さまざまな事項を決めなければなりません。
建設業許可を持っている方の場合は、それらに加えて、
「個人の許可を法人へ承継するのか」
「いつ個人から法人へ事業を移すのか」
「法人として建設業許可の要件を満たせるのか」
といった点も整理しておく必要があります。
法人化の日程だけを先に決めてしまうのではなく、建設業許可の承継手続きも含めてスケジュールを考えることが重要です。
承継すれば「許可だけ」が法人へ移るわけではありません
「建設業許可を承継する」という言葉から、単純に許可証や許可番号だけを法人へ移すようなイメージを持たれるかもしれません。
しかし、承継制度はそれだけではありません。
認可を受けて承継が行われると、法人は個人事業主の建設業者としての地位を承継します。
つまり、建設業許可によって生じている権利だけでなく、建設業法上の義務についても引き継ぐことになります。
たとえば、建設業法に基づく届出書類等の提出義務なども承継の対象になります。
そのため、「許可番号だけを引き継ぐ手続き」と考えるのではなく、個人事業主が建設業者として持っていた地位を法人が引き継ぐ制度だと考えると分かりやすいでしょう。
許可番号はどうなる?
法人成りを考えている方にとって、
「今まで使っていた許可番号は変わってしまうの?」
という点も気になるところではないでしょうか。
千葉県の承継制度では、原則として承継元である個人事業主の許可番号を使用することになります。
これは、個人の許可を廃業して法人で新規申請をする場合との大きな違いの一つです。
廃業して新規申請をする場合には、従来の許可番号を引き継ぐことはできません。
長く事業を続けてきた建設業者の方にとって、許可番号を引き継げることも承継制度の特徴といえるでしょう。
持っている許可の「一部だけ」を法人へ承継することはできる?
ここも注意したいポイントです。
承継制度を利用する場合、原則として、承継元である個人事業主が受けている建設業許可の全部を法人へ承継させる必要があります。
たとえば、個人事業主として複数の業種の許可を持っていて、
「この業種は法人でも続けたいけれど、こちらの業種はもう必要ない」
という場合に、必要な業種だけを選んで承継することはできません。
法人へ承継する必要のない許可業種がある場合には、認可申請をする前に、その業種について廃業届を提出するなどの対応が必要になります。
法人化を機に事業内容を整理したい場合には、
「現在どの業種の許可を持っているのか」
「法人化後はどの業種を続けるのか」
についても、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
法人側も建設業許可の要件を満たす必要があります
「個人事業主として許可を持っているのだから、そのまま法人でも大丈夫だろう」
と思われるかもしれません。
しかし、承継制度を利用する場合でも、承継後に法人が有することになるすべての許可業種について、法人側が建設業許可の要件を満たしている必要があります。
建設業許可には、建設業の経営業務を適正に行うための体制や営業所技術者等の技術面の要件、財産的基礎など、さまざまな許可要件があります。
また、欠格要件に該当しないことなども確認されます。
法人化によって役員構成や営業所などが変わる場合には、特に注意が必要です。
つまり、
「個人で許可を持っている=法人へ無条件で承継できる」
ということではありません。
法人化を計画する段階で、法人側が必要な要件を満たせるかどうかを確認しておくことが大切です。
一般建設業・特定建設業の区分にも注意
すでに法人側も建設業許可を持っているようなケースでは、一般建設業と特定建設業の区分にも注意が必要です。
承継元と承継先が同じ業種について許可を持っており、その一般・特定の区分が異なる場合には、そのまま承継することができません。
その場合には、不要となる方の許可について、認可申請前に廃業するなどの対応が必要になります。
個人事業主が新しく法人を設立する一般的な法人成りでは、設立したばかりの法人がすでに建設業許可を持っているケースは多くないかもしれません。
ただ、法人化の方法や現在の許可状況によって手続きは変わりますので、事前に整理しておくことが重要です。
法人成りの「日程」を先に決めすぎないこともポイント
法人化をするときには、
「○月1日から株式会社としてスタートしたい」
など、希望する日程があることも多いと思います。
しかし、建設業許可を承継する場合には、その日程だけを先に決めてしまわないことも大切です。
千葉県では、承継認可の申請について、事前に建設・不動産業課へ相談することを推奨しています。
書類に補正などが必要になれば、予定していた承継日までに認可を受けられない可能性もあります。
そのため、
「法人設立の日」
「事業を法人へ譲渡する日」
「建設業許可の認可申請・認可のタイミング」
を一連の流れとして考える必要があります。
会社設立だけを先行させるのではなく、建設業許可の承継も含めて余裕を持ったスケジュールを立てることをおすすめします。
承継後の許可の有効期間はどうなる?
承継認可を受けた場合、
「個人の許可の残り期間だけ法人が引き継ぐの?」
という疑問もあるかもしれません。
千葉県の手引では、承継後の許可の有効期間について、承継時点で個人の許可期間がどれだけ残っているかにかかわらず、承継の日の翌日から5年間とされています。
つまり、単純に個人事業主の許可の残存期間をそのまま引き継ぐ仕組みではありません。
法人化後の許可の更新時期にも関係するため、承継後は新しい許可期間をきちんと管理しておきましょう。
法人化した後も建設業許可の手続きは続きます
無事に承継が完了しても、それで建設業許可に関する手続きがすべて終わるわけではありません。
法人化後に、
「役員が変わった」
「商号を変更した」
「営業所を移転した」
「営業所技術者等が変わった」
など、一定の変更があれば変更届等が必要になる場合があります。
また、事業年度が終了した後に必要となる届出もあります。
法人化すると、個人事業の頃より役員や従業員が増えたり、営業所を新設したりすることもあるでしょう。
会社の状況に変化があったときには、
「建設業許可についても何か手続きが必要ではないか?」
と確認することが大切です。
また、承継前の許可書や申請書の副本、変更届、事業年度終了届などの書類についても、今後の手続きで必要になることがあります。
法人化したからといって処分せず、適切に引き継ぎ、保管しておきましょう。
千葉県で法人成りを考えたら、まず建設業許可も一緒に確認しましょう
個人事業から法人への移行は、事業にとって大きな節目です。
会社名や資本金、役員など、法人設立について考えることはたくさんあります。
しかし、すでに建設業許可を持っている方の場合は、会社設立だけを考えて進めるのではなく、建設業許可をどうするのかも同時に考える必要があります。
特に避けたいのが、
「代表者が同じだから個人の許可をそのまま使えると思っていた」
「会社を作ってから承継の手続きをすればいいと思っていた」
というケースです。
法人成りによる承継認可は、事業を承継した後からさかのぼって受けることはできません。
だからこそ、法人化の日程を決める前の段階から準備することが重要なのです。
まとめ
個人事業主として取得した建設業許可は、法人を設立しただけで自動的に法人へ移るものではありません。
一方、現在は、あらかじめ認可を受けることで、個人事業主から法人へ建設業者としての地位を承継できる制度があります。
千葉県でも、個人事業主が法人を新設する「法人成り」は、建設業許可の承継制度の対象として取り扱われています。
承継制度を利用する際に特に押さえておきたいのは、
・実際に事業を承継する前に認可を受ける必要があること
・原則として個人が持っている建設業許可の全部を承継すること
・法人側も承継後のすべての業種について許可要件を満たす必要があること
・原則として承継元の許可番号が引き継がれること
・承継後の許可期間は承継の日の翌日から5年間となること
などです。
「個人の建設業許可を法人へ引き継ぎたい」
「近いうちに法人成りを考えている」
「法人化する日と建設業許可の手続きをどう調整すればよいかわからない」
「今持っている許可を承継できるのかわからない」
このような場合には、会社設立の日程を確定してしまう前に、建設業許可についても確認しておくことをおすすめします。
行政書士は、建設業許可の新規申請だけでなく、法人成りに伴う承継認可、許可要件の確認、業種追加、更新、変更届など、建設業許可に関する各種手続きをサポートしています。
法人化と建設業許可をスムーズに進めるためにも、できるだけ早めに準備を始めましょう。
※本記事は、千葉県知事の建設業許可を受けている個人事業主が法人成りする場合を中心に、一般的な制度について解説したものです。実際の手続きは、現在の許可内容、法人化の方法、承継先の状況等によって異なります。個別のケースについては事前にご相談ください。

